【EMCセミナー・サポート記事その3】 EMC対策の基礎と、EMCクリップやシールドコネクタについて解説!

2021/06/04

  • セミナーサポート

増田 将吾

EMC対策、基本の基本。3つの要因を断つことから始めよう!

だいぶ時間が空いてしまいましたが、EMC対策・最終回(対策編)をお届けします。これまで、EMCの法規と理論編について解説しました。

第1回目(法規編):https://www.kmecs-automation.jp/techplus/detail_135.html

第2回目(理論編):https://www.kmecs-automation.jp/techplus/detail_137.html

今回は、対策編ということですが、基本的な考え方としては、以下のいずれかの要因を断つことがポイントになります【★写真1】。

【★写真1】EMC対策基本の基本。3つの要因のうち、いずれかを断つことがポイントになる。

たとえばインバーターなど①ノイズ発生源を断つ、②電導性ノイズの影響を受ける機器・回路に対策を施す、③伝搬路から空間を伝わるノイズを防止する、ということです。
つまり具体的な対策としては、①ノイズ発生源の機器は、シールドで覆って吸収させる、②伝導性ノイズにはフィルターを入れる、③電磁誘導電圧によるノイズを抑制する、ということになるでしょう。

ノイズ発生源のシールド効果を高めるための工夫

では①について対策を考えましょう。ノイズ発生源のシールド効果を高めるためには、完全に筐体を隙間なく金属で覆うことが理想的。しかし実際には、扉の隙間や通気口、ケーブルの出口などで隙間が空いてしまいます。
そこで以下のように、つなぎ目を多点接続シールドする、あるいは通気口などの開口部の形やサイズを工夫すると良いでしょう。開口部に関しては、理論的には大きな穴を開けるより、小さな穴を多く開けたほうがシールド効果が高まります【★写真2】。

【★写真2】ノイズ発生源のシールド効果を高めるには、つなぎ目を密閉し、通気口などの開口部の形やサイズも小さな穴を多く開ける。

接地の方法も工夫が必要です。シールドケーブルを筐体に接続するときは、シールド線を360度巻きつけるように接続するのがベストです。それができない場合は、シールド線をできるだけ短く太くして、放射性ノイズを出さないようにします。
また接地方法がノイズ発生に影響する場合もあります。複数の回路(インバータ)に多点接地する方法がベストですが、建屋・工場の構造によっては難しいことがあります。そこで1点接地が現実的になりますが、その場合でも並列ではなく、直列に接地したほうが一般的に良いとされています【★写真3】。

【★写真3】接地方法などを工夫する。多点接地がベストだが、難しい場合は1点接地で複数回路を直列に接地すると効果が高まる。

電磁誘導型、または静電誘導電圧によるノイズ発生を抑えるには?

③の電磁誘導型のノイズ対策についてですが、第2回の理論編でお伝えしたように、ノイズの原因となる制御線への電磁誘導電圧VmはVm=jωMI(ω=2πf)で表せます。ここで周波数fや電流Iをコントロールすることは現実的には難しいので、相互インダクタンスMを小さくする必要があります【★写真4】。

【★写真4】電磁誘導電圧Vmの式から、相互インダクタンスMを小さくして(線同士を離す)、電磁誘導型のノイズを抑えるのが現実解に。

そのためには動力線と制御線の距離を単純に離すという方法があります。あるいはMは面積に関係するので、各々の電線の面積を小さくするために、ツイストケーブルにするという方法も有効です。
また静電誘導電圧によるノイズも発生します。電荷をもつ導体に、絶縁体に覆われた電荷をもたない導体に近づけると、その導体は正と負の電荷が分離して現れます。絶縁体に覆われていても静電誘導の影響を受けます。
前回少し触れたように誘導静電電圧は、Vs=C1/(C1+C2)で表せます。ここでC2は制御線と大地間の浮遊容量なので、ここを接地するとC2を含む分母の項が無限に大きくなり、結果的にVsをゼロに近づけられます【★写真5】。具体的にはシールド付のケーブルを採用する、あるいは適切にシールドを接地することが大事です。

【★写真5】誘導静電電圧Vs=C1/(C1+C2)を小さくする。つまり制御線と大地間の浮遊容量のC2を接地し、分母を無限大にすればよい。

ケーメックス・オートメーションが取り扱う具体的なノイズ対策製品を大紹介!

ここからは具体的なノイズ対策製品について、ざっくりと触れたいと思います。前回、伝導ノイズ対策用にMurrelektronik社のEMCフィルタ「MEFシリーズ」や「EMPARROシリーズ」、またノイズ発生源の対策用にサプレッサについて説明しました。
今回はMURRPLASTIK社の「EMCシールドクリップシステム」と、Binder社のシールド付コネクタについて解説しましょう。
EMCシールドクリップシステムは、さまざまなシールド部品がワンセットにまとめられたキットです。ケーブルのシールド線を挟み込みと、筐体側のDINレールマウントやバスバー(導体棒、母線)にツータッチで取り付けられる点がポイントです【★写真6】。

【★写真6】シールド部品がワンセットにまとめられたMURRPLASTIK社のEMCシールドクリップシステム。ツータッチで接地できる。

またケーブルエントリーシステムを固定するための4つの穴に取り付けるEMCクリップ「AB-Clip 24-EMV」(上下)も用意されています【★写真7】。
ほかにもバネ式のクランプで、シールドケーブルを挟み込めるEMCクリップもあります。太いケーブルや振動があるような場所でも、強力なバネの力でガッチリと固定できます【★写真8】。
次にBinder社の注目製品としては、同社が初めて世に送り出したM5サイズのシールド付コネクタがあります【★写真9】。もともと同社では、センサー用としてM12/M8サイズは販売していましたが、昨今のセンサ小型化の流れから、M5サイズを開発しました。最近では産業用カメラのアプリケーションでもよく採用されています。

【★写真7】ケーブルエントリーシステム用のEMCクリップ「AB-Clip 24-EMV」。エントリーシステムの4つの穴に取り付けて固定。

【★写真8】バネ式のクランプによって、振動の激しい場所でもガッチリとシールドケーブルを挟み込めるEMCクリップ。

【★写真9】Binder社のM5サイズのシールド付コネクタ。M5サイズのシールドタイプは他社に先駆けてBinder社が発売したもの。


また同社では大きなサイズのコネクタも用意しています。ロボット先端のエンドエフェクターにも利用できます。アクチュエータに利用される大電流用(7A・250V)のM16サイズのシールドコネクタを多ピン(最大24ピン)にして、複数のセンサー用に使うこともできます。こちらはシリンダーや精密な電動XYステージでの国内実績があります。

ほかにもBinderはネジ式だけでなく、取り付けが容易なプッシュプル式のシールド付標準ミニチュアコネクタ「440シリーズ」(IP67対応)なども揃えています【★写真10】。

【★写真10】Mネジ式でない、標準のシールド付ミニチュアコネクタ「440シリーズ」。プッシュプル式で勘合・取り付けが容易に行える。


このように弊社では、さまざまEMC対策製品を取り扱っています。ノイズにお悩みの方は、ぜひ弊社にご相談下さい。

お問い合わせ

増田 将吾プロダクトマネージャー

主にMurrplastikやBinderを担当しています。
ヨーロッパの優れた製品を幅広く皆様にご紹介していきたいです。
週末にはボルダリングジムに通って汗を流しています。

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