NFPA79 2018年・2021年の改訂内容とは?│改訂に注意したケーブルの選び方
2025/02/12
- LAPP
砂川 裕樹
前回は、工場や建屋内におけるNFPA70のポイントと、 ある大手自動車メーカーで起きた重大なトラブルについて紹介しました。
お客様はケーブルをコスト面からみて、心情的に安い製品を選ぼうとする傾向が強いかもしれません。
しかし、ケーブル1本をとっても、非常に奥が深く侮れません。品質の優れたものを選ばないと、あとで付帯設備や機械設計をやり直すことになりかねません。
最悪の場合は訴訟問題に発展するかもしれません。
そういうリスクを避けるためにも、できるだけ良いケーブルの選定が求められることを、前回の事例でご理解いただけたと思います。
さて今回からは、いよいよ最新情報について説明したいと思います。
これまでのコラムでは、2012年までのNFPA79とNFPA70の大きな改定について話をしてきましたが、さらに2018年以降にもNFPA79での改訂についても確認したいと思います。
【目次】
2018年版、2021年版NFPA79では何がかわった?
【2025年1月更新】2021年版NFPA79での変更点
なぜNFPA79でサーボモータ関連の動力ケーブルの規定が加わったのか
サーボアンプやインバータの動作原理
正しいケーブル選定が重要
NFPA79 2018年版に適合するケーブルの特徴
LAPP社のおすすめVFDケーブル製品
VFDケーブルとは
ÖLFLEX® VFD 2XLシリーズの特長
可動部分での使用に注意する
VFDシリーズのラインナップ
まとめ
2018年版、2021年版NFPA79では何がかわった?
2018年以降のNFPA79では、動力線について言及されています。
この動力線はサーボモータやインダクションモータを動作させるために、サーボアンプ/ドライブやインバータから電力を供給する際に必要使われるものです。
【2018年版】
2018年の改定では、第4章 4.4.2.8項の「電力変換装置※からの電源回路」という規定が追加されました。
※注意:電力変換設備とはサーボアンプ/ドライブやインバータを指します。
具体的な内容は、
「可変速駆動システムの一部として使用される電力変換装置(サーボドライブやインバータ)から給電される電線や機材は、リステッド認証を伴ったRHH、RHW、RHW-2、XHH、XHHW、XHHW-2 の印のあるケーブルもしくは電力変換装置製造者の説明書に基づき選択されなければなりません。」
ということです。
この改定の肝は、ケーブルの絶縁体素材の要求レベルが高くなったことです。
絶縁体素材には樹脂が使われていますが、その樹脂も大別すると2つに分けられます。
1つは熱が高くなると溶ける「熱可塑性樹脂」です。もう1つは熱によって硬くなる「熱硬化性樹脂」です。
簡単にいうと、これまでAWMケーブルで広く用いられていた「PVC」や「THHN」など熱可塑性樹脂の絶縁体のケーブルが使えなくなりました。
今後はサーボアンプなどに使うケーブルについては、熱硬化性樹脂の絶縁体で、かつ上記に記載のリステッドの認証品が必要になります。
気になるRHH、RHW、RHW-2、XHH、XHHW、XHHW-2の意味は下記のとおりです。これらの絶縁体素材はUL44において熱硬化性樹脂と定義されております。
・RHH (Rubber High Heat resistant) - 熱硬化性。90℃の乾いた場所。
・RHW (Rubber Heat and Water resistant) - 耐湿熱硬化性。75℃の乾いた場所及び湿った場所。
・RHW-2 - 耐湿熱硬化性。90℃の乾いた場所及び湿った場所。
・XHH (Crosslinked Polyethylene High Heat resistant) - 熱硬化性。90℃の乾いた場所。
・XHHW (Crosslinked Polyethylene High Heat and Waterresistant) - 耐湿熱硬化性。90℃の乾いた場所。75℃の湿った場所。
・XHHW-2 - 耐湿熱硬化性。90℃の乾いた場所及び湿った場所
【2025年1月更新】2021年版NFPA79での変更点
2021年版では、上記の絶縁体材質に関する規制が緩和されました。
【2021年版】
2018年版では特定の絶縁体(RHH, RHW, RHW-2, XHH, XHHW, XHHW-2)のみが可変速度駆動電機システム(VFD) およびサーボシステムで使用できるといった誤解を生み、混乱状態となったため、絶縁体の素材を特定する項目が削除されました。
特定材質の絶縁体を使用する制限は緩和されましたが、それでもなお、サーボアンプ / ドライブからの高周波スイッチング電圧により、絶縁破壊からの火災になるリスクがあるため、LAPP社では引き続き、上記絶縁素材を使用したケーブルをラインナップしています。
【2024年版】
2024年にもNFPA79の改訂がありましたが、ケーブルに関する重要な改訂は上がっておりません。
なぜNFPA79でサーボモータ関連の動力ケーブルの規定が加わったのか
では、なぜ2018年のNFPA79改定において、サーボモータ関連で動力ケーブルに関する規定が加わったのでしょうか?
もちろん今回の改訂の目的もやはり安全性を高めることにあり、PWM(パルス幅変調)制御によって生じるサージに耐えられない熱可塑性樹脂を極力減らすことによってそれを達成しようという狙いになります。
サーボアンプやインバータの動作原理
まずは、サーボモータの速度などを制御するサーボアンプやインバータの仕組みについて知る必要があります。
サーボアンプもインバータも基本的な原理は同様です。AC(サーボ)モータの速度は、交流の周波数を変えることによって可変することができます。
周波数が高くなれば、モータ内部にある複数のステータ(固定子)で作られる回転磁場が速くなり、それに追従する形でモータのロータ(回転子)が回っていきます【★写真1】。
【★図1】ACサーボモータの典型的な構造。モータ内部にある複数のステータ(固定子)で回転磁場が作られ、
それに追従する形でモータのロータ(回転子)が回る。周波数が高くなると回転磁場が速くなり、
モータの回転も速くなる。逆に周波数が低くなると回転磁場が遅くなり、モータの回転も落ちる。
サーボアンプやインバータの内部構成は、コンバータ回路とインバータ回路に分けられます【★写真2】。
まずモータの速度を変えるために、入力の交流(米国は60Hz、日本は50Hz/60Hz )を、整流器を使って直流に変換します。
このとき直流を実効値で表現すると入力電圧の√2倍(1.414倍)になるため、たとえば動力源が交流460Vならば直流650Vに変換されます。
【★図2】サーボアンプやインバータの基本構成。整流器で交流を直流に変換する「コンバータ回路」と、
PWMで直流を疑似的な交流に戻す「インバータ回路」に分けられる。
次に、変換された直流をインバータ部で再び交流に戻します。この時の交流の周波数は、モータ速度を制御するために、PWM(パルス幅変調)回路によって、任意に調整できるようになっています。
PWMについては、【★写真3】のように、蛇口をひねる時間を調整し、風呂桶に水をためたり、流したりするイメージを想像するとわかりやすいでしょう。
【★図3】PWM(パルス幅変調)のイメージ。図のように、風呂桶に水をためるイメージを思い浮かべると分かりやすい。
蛇口をひねる時間を調整し、風呂桶に水をためたり、流したりすることで、疑似正弦波をつくる。
回路的には、IGBTなどのスイッチング素子を使い、短冊状にした矩形波のONとOFFの比率(DUTY比と呼びます)を変えることで、疑似的な交流を作り出します。
この時、PWMのキャリア周波数を約2kHzとすると、矩形波が1秒間に2万個ぶん発生し、断続的にオンとオフが繰り返されます。
一秒間に直流650Vが2万回もオンオフを繰り返します。
電気に詳しい皆様であればどれだけ恐ろしいノイズ源となってしまうかご理解いただけると思います。
キャリア周波数が高いほど、より正弦波(交流)に近い波形になるのですが、逆に大きなノイズ発生源にもなってしまうのです。
正しいケーブル選定が重要
モータに電力を供給するケーブルには、抵抗のほかに、L(リアクタンス)やC(キャパシタンス)を含んでおり(これらすべてを合成した抵抗をインピーダンスと呼ぶ)、前述のような断続的なスイッチングが原因となり、矩形波に「サージ」と呼ばれるノイズが乗ってしまう現象が発生します。
サージは正常電圧の2倍以上の高電圧成分を含むため、モータや動力ケーブルがダメージを受けることがあります【★写真4】。
もしケーブルの絶縁部に穴が開くと、電流が編組ケーブルに流れて熱が発生し、ブレードが燃焼してしまいます。
【★図4】インバータやサーボアンプから出力された矩形波(疑似正弦波)に、
正常電圧の2倍以上のサージが乗ってしまう。これがモータや動力ケーブルにダメージを与える。
もう1つの問題は、PVC電線の場合、PVCの誘電特性により、ケーブル静電容量が大きくなってしまい、充電電流が流れ込んでしまいます。
モータの動力は大電流ですので、その大電流が流れることによって、絶縁体そのものが目に見えないコンデンサの役割を果たし、電気を溜めてしまいます(静電浮遊容量)。
この影響によりコロナ放電や漏れ電流が生じサーボアンプやインバータに逆流し、内部回路を壊したり、動くべきタイミングでないときにモータを誤動作させる原因になります。
これらの問題は特に、ケーブルが長尺になったときや、湿った環境の時に起こりやすくなります。
また、熱可塑性樹脂のPVCは短絡によって生じる熱にさらされることで、溶けたり変形して大きな問題を引き起こす可能性もあります。
NFPA79 2018年版に適合するケーブルの特徴
そこで、絶縁体に電気を溜めこまず、耐久性、耐食性、耐電食性に優れた材質のケーブルを選ぶ必要があります。
たとえば「架橋ポリエチレン」(XLPE※)を絶縁体に使うと、長いケーブルでも逆流する電流を最小限にとどめてくれます。
この架橋ポリエチレンは、熱可塑性の鎖状構造ポリエチレン分子を部分的に結合させ、熱硬化性プラスチックのような立体の網目構造にして、耐熱性を高めたものです【★写真5】。
【★図5】熱硬化性プラスチックのような立体の網目構造で、耐熱性を高めた架橋ポリエチレン。
可塑性の鎖状構造ポリエチレン分子を橋を架けるように部分的に結合させる。
そこで結論として、サーボアンプとサーボモータ間には、絶縁体に架橋ポリエチレンなど熱硬化性樹脂を採用し、リステッド認証を取った動力ケーブルを使うと前述のような心配がなくなり、より安全となるということが今回の改訂の狙いとなります。
LAPP社のおすすめVFDケーブル製品
では、具体的にはどのようなケーブルがあるのでしょうか。
弊社取り扱いのLAPP社のケーブルのうち、特にサージに強く、電気的なスパイクや、インバータ制御などで悩ませられがちなコモンモード電流によるノイズを保護でき、パフォーマンスを最大限に引き出せる製品として「ÖLFLEX VFD 2XL」を紹介します【★写真6】。
【★写真6】サーボアンプ&サーボモータ用に最適なLAPP社の「ÖLFLEX VFD 2XL」(カタログからの抜粋)
VFDケーブルとは
まず、VFDとは、Variable Frequency Drive:可変周波数ドライブ、つまり交流周波数を変化させることでモーターの回転速度を調整するインバータやサーボアンプを指します。
VFDケーブルとは、インバータやサーボアンプからインダクティブモータあるいはサーボモータに接続するための動力線を指します。
VFDケーブルに求められる性能は、PWM制御によって生じるサージを軽減するための対策だけでなく、電源ON時の突入電流によって他の機器の破壊につながりかねないケーブルの静電浮遊容量を下げる必要があり、さらに周辺機器にノイズ影響を及ばさないように優れた遮蔽性能と、他の分野で用いられるパワーケーブルやコントロールケーブルと異なる性能が求められます。
ÖLFLEX® VFD 2XLシリーズの特長
現物の写真を見てみましょう。ケーブルの外皮には、以下のような記述があります【★写真7】。
「TC-ER RHW-2」
「WET or DRY 600V/2000V」
【★写真7】ここに注目! 「ÖLFLEX VFD 2XL」の外皮の記述その1。
「(UL)TC-ER RHW-2 90C WET or DRY 600V/2000V」
これにより、本製品がTC-ERにもRHW-2にも適合しており、2000Vまでの耐電圧が保証されていることを理解できるでしょう。
もちろん耐油性(OIL RES I/II)もあります。
2018年のNFPA79改定におけるサーボモータ用として、まずはÖLFLEX VFD 2XLならば、どこでも胸を張って使えることをご確認ください。
ちなみに第4章 4.4.2.8項に書かれているRHW-2とは「Rubber Heat and Water resistant」の略称で、90℃の乾いた場所及び湿った場所に対応した熱硬化性を意味します。
この「Rubber=ゴム」という言葉に引っかかった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ここでいうラバーとは、少しややこしいのですが、ゴムのことではなく、熱硬化性樹脂を指しています。
したがって架橋ポリエチレン(XLPE)も含まれます。ÖLFLEX VFD 2XLは、RHW-2の規格も取っているわけです。
可動部分での使用に注意する
ただし、話はそれだけでは終わりません。
一般的に架橋ポリエチレン(XLPE)ケーブルは、固定配線をして使う場合には全く問題はないのですが、ロボットなどの可動部分で使う場合には、それほど適しているとは言えないのです。というのも熱硬化性樹脂はケーブルとして固いためです。
またまた話がややこしくなるのですが、ただ従来の屈曲用ケーブルに使われていた熱可塑性樹脂が、サーボモータ用として絶対に使われないかというと、実はそういうことでもありません。
2018年版のNFPA79 4.4.2.8項では例外事項が加えられており、「~もしくは電力変換装置製造者(インバータやサーボアンプメーカー)のマニュアルに基づき選択されなければなりません」と記載があります。
規格特有の非常に分かりにくい記述ですね……。
簡単にいうとサーボモータやアンプのメーカーによるお墨付き(指定)がありマニュアルに『〇〇のVFDケーブルを使用すること』と記載があれば、熱可塑性樹脂のケーブルでも使って良いということです。
VFDシリーズのラインナップ
LAPP社ではXLPE材質ではないVFDシリーズもラインナップしています。
2018年版の改訂により残念ながら準拠品ではありませんが、欧州向けや日本国内向けでも幅広くご利用になれる信頼性の高い構造となっておりますので、ご紹介させていただきます。
このVFDシリーズを知るために、内部構造についても少し触れたいと思います。
「LAPP Surge Guard」とは、LAPP社がVFD向けに独自開発した絶縁体構造を意味します。
導体を保護する絶縁体の構造に特長があり、導体側から順に、【半導体化合物層】【PVC】【ナイロンコーティング】のなんと三重構造となっています。
VFD内で起こるさまざまな電気現象(反射、定常波、サージ)による悪影響からケーブルを保護し、PWM制御による高電圧のサージが起こる瞬間、この半導体化合物の層がクッションとなり、外部の層への電気ストレスを軽減することで製品寿命を延ばします。
PVCとナイロンを組み合わせた外部の層により、耐熱性と機械的な強度をさらに補強し、優れた耐クラッシュ性と耐衝撃性を兼ねそろえることでUL TC-ER規格を満たすことができます。
ロジスティクスなど、インバータからモーターまでの距離が長くなりがちな場合はこのTC-ER規格品を使うとケーブル設置が楽になります。
TC-ERについての詳細は「NFPA基本の基本【第4回】」内で解説をしています。(https://www.kmecs.com/techplus/lappkabel/20190522_000100.html)
シールドにも工夫があります。
LAPPのVFDケーブルはすべて、高い編組遮蔽率の編組シールドと3積層のラミネートホイルテープの組み合わせで構成された優れた「スーパーEMIシールド加工」がされています。
このシールド加工によって、伝達インピーダンスを最低限に抑え、シールドの内側・外側の両方の干渉波から保護します。
「LAPP Surge Guard」と「スーパーEMIシールド加工」を有するのは、VFDシリーズには、3種類のラインナップがあります。
1つ目は外径を小さく保ちながらもTC-ER取得の「ÖLFLEX® VFD SLIM」、2つ目がÖLFLEX® FD VFDに信号線を加えた「ÖLFLEX® VFD with Signal」、3つ目がよりフレキシブルな可動設置向け「ÖLFLEX® FD VFD」です【★写真8】。
【★写真5】VFDシリーズのケーブル構造。導体は半導体化合物の黒い皮膜で保護されており、
これにより高いサージ耐性を得る。
まとめ
PWMインバータやサーボを使う制御システムや、工作機械、ロボットなどで、海外へ輸出をする際には、最新のNFPA79改定を踏まえて、ぜひ最適なケーブルをご利用ください。
その際に我々が取り扱うLAPP社のケーブルが大いにお役に立てると思います。詳細については知りたい方は、ホワイトペーパーをご請求いただくか、弊社の担当までご連絡ください。
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砂川 裕樹プロダクトマネージャー
Murrelektronikのエキスパートになるべく奮闘しています。
お客様の問題点の解決や要望に応えられるよう日々勉強中です。
学生時代から鹿島アントラーズの熱狂的ファンでチームが勝つべく毎週全力応援。
時には残念な結果に終わることもありますが、敗戦をお客様の機械配線のご相談に引きずらないようオンオフの切り替えをしっかりしております。
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