事例で学ぶNFPA70のトラブル | 大手自動車メーカーのケーブル配線

2024/01/10

  • LAPP

砂川 裕樹

NEC(National Electrical Code)、通称NFPA70は、米国の電気設備に関する安全基準を定めた規格であり、電気配線やケーブルの選定・設置において厳格なルールが求められます。
この規格は特に産業施設や商業ビルの安全性を確保するため、幅広い分野で採用されています。

本記事では、実際にクライアントが直面したNFPA70に関連するトラブル事例を振り返り、その原因や問題点、そしてどのように解決に至ったかを解説します。

NEC(NFPA70)についての復習

今回は、もっと広い工場や建屋内における電気配線をルール化した「NEC」(National Electrical Code、米国電気工事基準、NFPA70とも呼ばれる )のポイントについて解説したいと思います。

ここでNECについて復習しましょう。
NFPA79とNECの適用範囲の違いについては過去に上げた「NFPA70とNFPA79の違い | なぜ遵守する必要がある?」の記事でもご説明していますが、簡単に説明すると、以下のように分類されております。

NFPA79:産業機械内で使われるケーブルや配線方法
NEC(NFPA70):工場の配電盤~機械の制御盤までの建屋内を走るケーブルや配線方法

 


NECとNFPA79の適用範囲。赤で囲まれた部分がNFPA79の適用範囲。
簡単に言うと、産業機械の電気配線で使う際に求められるのがNFPA79で、
その機械に入るまでの建屋内の配線に求められる規格がNECとなる。

【概要】クライアントが直面したトラブル



弊社のお客様が直面したNECに関するトラブルと、どのように解決できたかのお話をご紹介いたします。

あるとき大手自動車メーカーが、米国の自社工場内に射出成型機を設置したのですが、ここで大きなトラブルが起きてしまいました。
同社はこれまでの経験から米国での電気配線に精通していたつもりなのですが、なぜか現地のAHJ(規制監督局の監査官)からダメ出し通告を受けてしまったのです。

当時その自動車メーカーは、射出成型機と制御盤をつなぐケーブルを天井のトレイで這わせていました。
そこでケーブルトレイで使用できるトレイケーブル(TC)に準拠したケーブルを使っていたのは良いのですが、「トレイから制御盤、トレイから射出成型機に至る、むき出しに垂れ下がったケーブル部については、NECの基準に準拠して金属の電線保護管(コンジット)を付けなさい」というのが、AHJ側の主張だったのです。


ケーブルトレイから制御盤に至るケーブルは金属管で保護される必要がある。

【原因】なぜNFPA70のトラブルが起こったか

そもそもの原因は、対象となる射出成型システムが非常に大きなものだったため、機械と建屋の区別が明確ではなかったことに起因するものでした。
その自動車メーカーはあらかじめ機械内配線にNFPA79に対応したケーブルを利用しており、そのため特に問題がないと考えていたので、「これは射出成型機の一部だ」と主張をしましたが、AHJは「ここは建屋側だ」と判断されてしまったのです。
ご存じ、AHJの判断が最終判断となるので、自動車メーカーの言い分は通りませんでした。

【問題点】今回のNFPA70におけるポイント

実際、このように装置と制御盤を結ぶ場合には、どこまでが装置で、どこまでが設備なのか、そのカバーリングについては誰も明確に説明できないグレーゾーンであり、曖昧なまま運用されていたことも背景にありました。

しかし、すでに同社では各種機器の施工も終わり、あとは工場の稼働を待つばかり。
いまさらケーブルだけのために保護管を付けるとなれば、それこそ大変な作業になってしまいます。
とはいえ工場稼働の認定をパスするためには、現地のAHJの命令は絶対です。
困りきっているところで、AHJ側から1つのアドバイスを受けました。

【解決策】TC-ER認証を取っているケーブルの導入

AHJからのアドバイスは、『「TCーER」(Tray Cable for Exposed Runs)の認証を取ったケーブルを使えば金属管の保護なしにむき出しで配線できる。』といったものでした。

   

TC-ERケーブル(OLFLEX CONTROL TM)での配線例。
ケーブルむき出しで配線OK。

ちなみにTCは、UL1277垂直トレイ燃焼試験やCSA FT4/IEEE1202によって規定された大規模な燃焼試験に合格しなければ認証を受けられません。

TC-ERは、詳しくは次回以降で紹介しますが、トレイケーブル(TC)の認証だけでなく、さらに露出設置(ER)のための厳しい打撃衝撃試験に合格する必要があります。【★写真5】

金属管の保護なしにむき出しで配線できる理由は、それだけ頑丈であるということが証明されていることに他なりません。


LAPP社で使われているER試験装置の外観。これでケーブルに十分な強度があることを確認する。
LAPP社ではこうしたUL試験の実験装置を自社ラボ内にもっており、自社で試験を行うことができる。


TCケーブルとTC-ERケーブルの概要。TC-ERまで取れている製品は少ない。

自動車メーカーから緊急のご用命を受け、ご提案したのが、TC-ER認証をとっている「OLFLEX CONTROL TM」でした。
「OLFLEX CONTROL TM」はUL認証のリコグナイズドとリステッドは当然のこと、AWM、MTW、TC、TCーERまで対応しています。

この騒ぎがあったあと、同社のなかでは、「OLFLEX CONTROL TM」はNFPA79の範囲内(機械側)であろうがNECの範囲内(建屋側)であろうが、ケーブルトレイ内だろうが、どこでも使える「万能ケーブル」と呼ばれ、重宝されるようになりました。

TC-ERは、詳しくは次回以降で紹介しますが、トレイケーブル(TC)の認証だけでなく、さらに露出設置(ER)のための厳しい打撃衝撃試験に合格する必要があります。【★写真5】

LAPP社のケーブル「OLFLEX CONTROL TM」のご紹介

先に説明したように、TCやTCーERではより厳しい難燃試験にパスする必要があるため、外皮を厚くする必要があります。
ケーブル外径が大きくなると、従来まで使われていた配線管やコネクタでの取り回しがやりづらくなります。

そこでLAPP社の「OLFLEX CONTROL TM」では、絶縁体のPVC(ポリ塩化ビニル)にナイロンテープを巻くことで、難燃性を高める特殊構造(ナイロンジャケット付き特殊混合PVC絶縁体)にしています。
これにより外皮の厚さを従来のリコグナイズド認証品と同等にできるのです。

性能の高さに加え、ケーブル外径も小さい。こちらもお客様からご評価をいただいている点です。

まとめ

NFPA70に準拠した設備運用は、電気システムの安全性と効率性を保つ上で欠かせない要素です。今回のトラブル事例からも、適切なケーブル選定の重要性が改めて認識されました。



★関連製品
ULリスティング ケーブル→https://www.kmecs-automation.jp/standard/002/cable/
ULレコグニション ケーブル→https://www.kmecs-automation.jp/standard/019/cable/


お問い合わせ

砂川 裕樹プロダクトマネージャー

Murrelektronikのエキスパートになるべく奮闘しています。
お客様の問題点の解決や要望に応えられるよう日々勉強中です。
学生時代から鹿島アントラーズの熱狂的ファンでチームが勝つべく毎週全力応援。
時には残念な結果に終わることもありますが、敗戦をお客様の機械配線のご相談に引きずらないようオンオフの切り替えをしっかりしております。

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